アメリカ政府に、Small Business AdministrationというAgencyがある。日本でいうと、中小企業庁と中小企業金融公庫と日商が一緒になったような機関で、アメリカ国民が自らビジネスを起こそうとするときに、様々な面で支援を行う。いかにもアメリカらしい、政府機関である。
ところが、ここの推計によれば、アメリカの雇用者のうち、大企業に勤めている者が過半数になったのではないかと見られている。具体的に、ここでいう大企業とは、雇用規模が500人以上の企業を指しており、そこに勤める従業員の割合が、1998年には45.5%、1999年には49.7%と上昇し、2000年は50%を越えたと見られている。
参考までに、日本の総務省「労働力調査」によれば、次のようになっている。
雇用者が全体で5303万人で、そのうち500人以上規模の企業に勤める雇用者が1165万人となっている。約22%しかない。独立創業の気風が高いアメリカですら、500人以上規模の従業員が50%を超えている現実と較べると、如何に日本が中小企業を保護してきたかがわかる。中小企業がすべていけないなどというつもりは毛頭ないが、資本の論理を追求した結果がアメリカの姿であり、それを社会主義的な保護政策で歪めてきたのが日本の姿なのではないか。
中小企業を保護したことで、何がよかったのか。かつて栄えた商店街のなかで、後継者がいなくて寂れてしまったところがいったいいくつあるだろうか。私の親戚が別府の駅前商店街に店を出していたのでよく覚えているが、もう10数年前から、半分くらいの店がシャッターを閉じたままだ。まるでゴーストタウンそのもので、よくこれで犯罪がおきないなと、妙な感心をしたものである。
金融危機が懸念されてすでに5年近く経つが、いまだに中小企業への貸し渋り対策などということに、政治家は注力している。大企業であろうと中小企業であろうと、成長する企業に貸し付けを行うというのが金融の原則だ。この原則をまげてまで守らなければいけないものが、本当にどれだけあるのか、疑わしいものである。また、そういう選別やリスクがあるからこそ、中小企業ならではの発想や製品が生まれてくるものと思う。
このSourceは、Employment Policy Foundation (EPF)が、下院で行った議会証言である。議会証言の趣旨は、アメリカの労働市場や雇用をめぐる環境が大きく変わっているのに、関法律や規制が50年前の姿を前提にしたまま残っている、というものだ。残念ながら、どの法律、規制をどのように変更すべきかという政策提言はないのだが、この50年間のアメリカ労働市場の変化についてまとめているので、ぜひ読んでもらいたい。
大きな環境の変化として、EPFは次の5点を指摘している。
@雇用の機会が大幅に増加していること。
A産業構造が変化していること。
B仕事の内容が変化していること。
C要求される教育程度が高まっていること。
D仕事に求める期待やニーズが多様化していること。
こうやってみてみると、日本の労働市場は、アメリカ労働市場の変質を後追いしているように読めてくる。ちょっと違うかな、と思われるのが、アメリカの教育とは、企業において即戦力として使えるだけの教育、ということを意味している点と、アメリカには多数の移民が存在している点だろう。
日本の社会がどこまで今のアメリカ社会に近づいていくのか、議論があるところだろうが、教育レベルが高まっている点、男女の共同社会参画が社会目標となっている点、社会の高齢化が進んでいる点、などからみて、かなりの程度、近づいていくものと予想できる。
そうだとすれば、日本の企業は、真剣に労働者の多様化への対応を図る必要がある。高齢化・少子化の進展は日本の方がうんとスピードが速く、それだけ労働力不足が深刻になる時代が早くやってくるからだ。
例えば、上記議会証言で示された、労働者の家族構成は、次のような姿になっている。
かつて典型的な家族構成であった、夫が働いて妻子を養う、というパターンは、どんどん減少し、夫婦共稼ぎ、単身者よりも少なくなっている。また、これを子供の有無でわけると、さらに多様化する。
これだけ労働者の生活の姿が多様化すれば、そのbenefitに対するニーズ、就労時間、就労形態も多様化せざるを得ない。「雇用維持のために」という政策目標でワークシェアリングを議論しているような場合ではなく、むしろ、積極的に有能な人材を確保して競争市場で勝ち残るために、多様な就業形態を用意し、それを使いこなせる人事制度にしておかなければいけない。パートタイムや、人材派遣業、契約社員などについて、昔のように、正社員の副次的位置付けではなく、戦略的に利用していく必要がある。そのためには、「これらの就業形態=社会的弱者」というステレオタイプ的な発想を日本社会が捨て去る必要がある。
EBRI (Employee Benefit Research Institute)の"Value of Benefits Survey"が一部公表された。これは2年ごとに、勤労者のEmployee Benefitに関する意識を調査するもので、今回発表になったのは、昨年11月に実施された調査の一部である。(Websiteはsummaryのみ)
公表となった主な調査結果は、次の通りである。
@勤労者が一番大事だと思っているbenefitは医療保険である。(下図参照)
A就職を決める際に、77%の勤労者がbenefitをとても重要な要素と考えている。
BDB型年金を好む勤労者が増えてはいるものの、依然として34%の勤労者が401(k)タイプだけでよいとしている。
アメリカには、現役世代を対象とした公的医療保険がないので、どうしてもこういう結果にならざるを得ない。また、EBRIの研究者に言わせると、アメリカ人はどうしても短期的視野で判断するので、年金等の老後のことについては、ついつい後回しになりがちとのことだ。こうしてみれば、アメリカ人だって、結構企業頼みにしている部分がたくさんあるんじゃないかと思う。
しかし、このような調査を日本で見たことがないので何とも言えないが、そもそも日本の勤労者はこういうbenefitに関する選好というものを持っているのだろうか。やはり終身雇用の幻想から、何から何まで企業頼みにして、自ら人生設計を考えるということをして来なかったのではないだろうか。前任がやってきた通りにしていれば、老後の生活もできると思っていなかっただろうか。現在の20代の若い勤労者は、アメリカ人と同様の意識を持っているのだろうか。そんな疑問が次々とわいてきてしまった。
DC Planに関する改正法案がほぼ出揃ったようだ。次の一覧は、上記Sourceで、"Plansponsor"がまとめた法案概要だ。太字の法案が有力法案と見られている。
Peter Deutsch/Gene Green
(さらに詳しい比較が必要な場合には、PSCAの比較表が詳しい。)
Ken Bentsen
Charles Rangel
David Bonior
George Miller (下院民主党)
Benjamin Cardin/Robert Portman
Phil English
John Boehner/Sam Johnson (下院共和党)
Barbara Boxer/John Corzine
Paul Wellstone
Kay Bailey Hutchinson
Tim Hutchinson (上院共和党)
Chuck Grassley
Ted Kennedy (上院民主党)
上下院の共和党案は、大統領提案をフォローアップしたものである。他方、上院民主党のKennedy法案は、下院民主党Miller法案の一部を取り込んでおり、さらには、Barbara Boxer議員の支持署名も得ている。こうしてみると、大統領提案 vs. Kennedy法案と見ておいて間違いないだろう。なお、Kennedy法案には、401(k)プラン資産における自社株割合に関するキャップ規制は含まれていない。このKennedy法案にBoxer議員が支持署名をしているということは、事実上、自社株に関するキャップ規制の議論はなくなったということになる。
Kennedy法案にはユニークな点がある。それは、一定水準以上の給付を約束しているDBプランを持っている場合に限り、「401(k)プランへの自社株拠出」と「投資選択肢としての自社株」の両方を認める、という点だ。逆に言えば、一定水準以上のDBプランを提供していなければ、「自社株拠出は認めるが投資選択肢としての自社株は認めない」または「投資選択肢としての自社株は認めるが自社株拠出は認めない」ということになる。これは、DBという支払保証のある制度を提供している場合に限り、自社株拠出、(個人勘定での)自社株保有を認めようということだ。なお、401(k)プランを利用していない単純なESOPは、規制の対象からはずすとしている。
これなら、確かに、Enronのような事件は発生しにくくなる。PBGCが保証するDBがあれば、会社の倒産とともに年金資産も消失してしまうということはなくなるからだ。この内容を読んでいて、日本で確定拠出年金の導入を議論していた際、LDPの伊吹文明議員が、「大企業には既にDBがある。そこの従業員ばかりを優遇してはいけない。我々は、DBを持っていない中小企業のために、この確定拠出年金を導入するのだ」と主張していたのを思い出した。このような発想から、日本の確定拠出年金では、DBの有無により拠出限度額に格差が設けられた。
日本の確定拠出年金制度には、自社株拠出や、アメリカのESOPのような株主と従業員の利益を近づけるという発想がもともとないので、伊吹議員の主張は、これはこれで一つの理屈となるわけだが、アメリカではそうはいかない。中小企業が有能な人材を集めて大きく伸びてきた背景の一つとして、ストックオプションと401(k)プランへの自社株拠出があることは間違いない。中小企業は、資金調達、キャッシュフローに余裕がないからこそ、DBプランを避け、自社株を使った退職プランを提供しているのだ。Kennedy法案は、自社株利用に関する限り、大企業への影響は小さく、むしろ、中小企業の401(k)プランにおける自社株の利用を制限することになる。Enronだって、ひどいことをしていたとはいえ、DBプランを持っていたのだから。
Kennedy議員は、上院Health, Education, Labor and Pensions Committeeの委員長であり、先の教育改革法案では、Bush大統領の支持を取り付けて成立までこぎつけた実力者である。Bush大統領も、上院との協調の橋渡し役として一目置いているだけに、Kennedy法案に真っ向から反発することは、今後の議会対策として得策ではないだろう。理念と現実の政治情勢を背景に、Kennedy法案と大統領提案をめぐって相当な議論が行われるものと思われる。
小さな子供を持つ女性が、仕事をやめて家庭に入っている例が増えているそうだ。統計上も、これまで増える一方であったworking motherが、2000年には減ったそうだ。一時的な現象かもしれないので、これで大きなトレンドが変わったと判断するのは早計だが、その背景には、どうも価値観の変化があるらしい。
家庭を持ち、子供を育てることに重点を置いている若い女性が増えているのは、彼女達の母親世代が、仕事と子育てを両立しようと頑張っている姿を見て、ああはなりたくない、と反発している部分があるらしい。もっと家庭や子育てに重点を置きたいという。もちろん、技術の発展で、家にいながらスキルアップができたり、アルバイト的な仕事を続けたりすることができるようになったことも、大きな環境の変化だ。
私の周辺の家を見ていると、確かに、勤めに出ていない母親をたくさん見かける。しかし、彼女達のイメージは、これまで私達が持っている「専業主婦」というイメージとは程遠い。ボランティアで学校の授業の手伝いをする、課外活動の指導をする、ボーイスカウトの引率をする、地域の利益のために行政府に働きかける、と、とても活動的だ。つまり、企業におけるキャリアだけがキャリアではない、という意識が窺い知れるのである。
これは、大変羨ましいことだ。企業活動とcommunity活動が両立して、初めて安定した社会が成立するのではないかと思っている。日本の社会は、企業活動にあまりにも重点を置きすぎたために、community活動、というかcommunityそのものが崩壊してしまっているところがある。私自身の行動を考えてみても、地域のためになにかをする、という割合が極めて小さい。せいぜい、学校関係とマンションの管理組合程度だ。
私は、かなりの保守派なので、母親の家庭回帰は望ましいと思っているが、ただ家庭に帰るのではなく、働いている間に得た知識と経験を、地域で活かしてもらいたいとも思っている。これからの少子社会で、企業は間違いなく労働力不足に対処しなければならなくなる。その時に、たくさんの労働者(男女とも)が、地域と企業の間を行き来するような仕組み、制度を用意しておかなければ、労働力不足はさらに深刻な問題として企業にのしかかってくることになると思う。
9日、ブッシュ大統領は、"Job Creation and Worker Assistance Act of 2002"に署名した。September 11以降、経済刺激策のあり方をめぐり、共和・民主両党の間で激論が交わされてきたが、ようやくここで結論に至った。
内容は、
@失業保険給付期間を、通常の26週間から13週間延長する。失業率の高い州は、さらに延長可能とする。
A投資減税、Lower Manhattanへの投資優遇制度を実施する。
というものだ。
大統領は、いずれも雇用対策であると位置付けている。@はそのものずばり、またAも雇用創出のための対策と説明している。この対策により、今年150億ドルの支出効果があると見られている。
この法案は、7日には下院(417-3)、8日には上院(85-9)で圧倒的多数で可決された。しかし、8日のTopicsで取り上げた「グリーススパン議長の議会証言」にもある通り、アメリカ経済は回復の予兆を示しており、対策が既に遅きに失しているとの批判も出ている。なんと、上院予算委員長であるKent Conrad (D-N.D.)議員は、まさにこの遅れを公言し、さらには反対票まで投じている。
先週末、急転直下、議会を通過し、法案の署名にまで至ったのは、これまで大規模な投資減税を主張してきた共和党 が規模を半減することで譲歩したためである。しかし、何よりも議会を強く後押ししたのが、今日(3月11日)がSeptember 11から6ヶ月目である、ということだ。今日は、NY、Pentagon、Pennsylvaniaで、追悼記念行事が行われる。また、当然、White Houseでもセレモニーがある。そういう時に、議会が何も対策を講じられなかったということでは格好がつかないのだ。
まさにそういう妥協の産物だからこそ、最も難題であった失業者の医療保険対策は、すべてドロップしてしまった。民主党は、失業者の医療保険に対する補助金を主張し、共和党は、失業者に医療保険料の税額控除を主張してきた。いずれも多額な支出を要し、しかも恒久措置になりかねない。そのように大きな話を中間選挙前に決着させることはできなかったということだろう。医療保険に対する国民の関心が高いだけでに、今後ともなかなか解決策は見出されないだろう。
Hewlett-PackardとCompaqの合併論争が、ますます面白くなってきた。
Topicsの「2月27日 1%の株主達」では、HPの退職者達が自分達の退職後医療保険が廃止されるのではないかと懸念して、合併に反対に回りそうだということを書いた。その後、3月5日、Institutional Shareholder Services (ISS)という会社が合併を支持するレポートを公表した。IISというのは、委任状に関するアドバイスを提供する企業で、主に機関投資家へのサービスを行っている。IISは、合併そのものには多額の費用がかかり、短期的には収益力は落ちるものの、長期的には好ましいものであり、株主の利益になるとの結論を出した。
IISの顧客が有するHP株は約10%と見られており、多くの機関投資家が、IISのアドバイスを受け入れると見られていたため、HP経営陣には若干安堵の色が見られた。ところが、そのIISの顧客であるCalPERSが、8日、合併反対の意見表明を行ったのだ。しかも、他のPension Fundにも、合併反対を呼びかけていくとの決意表明までしている。
CalPERSとは、The California Public Employees' Retirement System の略称である。カリフォルニア州の公的機関に勤める従業員の退職年金、退職者医療を管理している。投資家として企業経営、投資行動に積極的に意見を述べていくことで、投資パフォーマスを高めようとしており、市場では有名なPlayerである。CalPERSが所有するHP株はわずか0.4%、Compaq株も0.39%に過ぎないが、合併反対表明を行った影響は計り知れない。
CalPERSのPress Releaseが入手できていないので、詳しい理屈はわからないが、報道によれば、次のようになる。
・HPの株主にとって、またCompaqの株主にとって、この合併は好ましいものかもしれない。
要するに、大衆消費者向けのPC事業はCompaq、プリンタ・ハイエンド向けサービス事業はHPと、それぞれ特化してくれた方が、Performanceは高まると見ているわけだ。年金資金特有の、「長期」、「分散」という投資行動原理がよく表れていると思う。19日がますます楽しみになってきた。
・しかし、CalPERSにとって、別々の会社の株を所有することに較べ、合併した会社の株を所有することは有利ではない。
・HPが、プリンタ等の事業に特化するとともに、ハイエンドユーザー向けのサービスを強化することが、CalPERSにとって最も望ましい。